醸句通信
2007.01.13
石澤 Foo さんより
私は、仕事柄日本酒を販売しているが、どちらかと言うと一杯飲るのが好きなほうだ。それも、とびきりの「吟醸酒」で……。
出会いは10年以上前にさかのぼる。
私は「吟醸酒」に骨抜きにされていた。訳も分からず、その味の魅力に引かれて北から南、片っ端から呑み、そして旨さに躍っていた。ある時「浦霞エキストラ」という大吟醸に出会った。途方もなく深い味わい、ゆらゆらと苺を思わせるような吟醸香、優しく優しく味蕾を刺激する。その頃の私は、山廃仕込みの押しの旨さや、すばらしい吟醸酒の吟熟した旨みが分かり始めた頃で、ある意味でこの吟醸酒との出会いは衝撃的だった。派手な香りをまとったような吟醸酒では無かったが、強く脳裏に焼き付いた。仕込んでいる酒米は「赤磐雄町」……知らなかった、読めなかった、「アカバンユウチョウ」だった。
あの酒米を追え!すぐにこの酒米の存在を探し「あ・か・い・わ・お・ま・ち」であることに気付く。そして行きついた先は「利守酒造」。酒米「赤磐雄町」を復活させた蔵元「利守酒造」だった。恥ずかしいが知らなかった。
酒の神様「野白先生」(熊本県酒造研究所内・野白先生謝恩刊行会刊)の「吟醸の理想と実際」の中にこんな下りがある。
……まず原料米の問題ですが、米は備前(岡山)雄町が欲しいのはだれでも同様と思います。しかしその備前米の入手は困難であります。昭和五年(1930年)ごろは赤磐郡軽部村のものをわれわれは使用していましたが、熊本県のごとき造石高の少ない県には備前米は全然配給がないので、まず兵庫県の山田錦を使用しております。……
その後も石川県の「菊姫」という山廃吟醸を普段着で飲める至高の酒だと思っていたと同時に、酒米の大切さを知り始める……。とき同じある日「レモンハート」というコミック漫画の中で、利守酒造・山廃純米大吟醸「秘伝」の話に出会う。再び私の前に「赤磐雄町」しかも山廃仕込み、もちろん蔵元は「利守酒造」……。唸ったのは言うまでもない。やっとの思いで手に入れた。その感動は今でも忘れない。
山廃純米大吟醸「秘伝」、女房と一緒に封切った。ドーンと一気に口中に味が広がり、香ばしい山廃の持つ「あの香り」が、ゆらゆらと鼻孔をくすぐる。湖面のさざ波を連想させるように味がせまって静かに喉の奥に消えてゆく。この瞬間の押しに言葉が出ない。喉の奥に消えたはずなのに、優しい残り香が戻ってきてすぐさま次の一杯を体が要求してくる。「やられた、なんて凄い酒なんだ。」
純米大吟「秘伝」は、本当の旨酒は腹で味わうことの大切さと醍醐味を教えてくれた。
それからというもの、いまだに酒米の帝王「赤磐雄町」にはやられっぱなしだ。
ここのところ、「雄町」がさまざまな蔵元で商品とされて出荷されているようだが、「赤磐雄町」を知り尽くした「田村豊和」名杜氏の醸す雄町を越える吟醸に、いまだ出会うことなし!