醸句通信

2007.01.13

備前焼大甕での仕込み




 桶での酒仕込みが始まる15~16世紀まで、酒は甕(かめ)で造られていました。

 幻の米「赤磐雄町米」(軽部産・雄町)を復活させ、『本物の酒』を志す利守酒造が次に目指したのは、この500年前と同じように大甕を使用した酒造りでした。もちろん、その大甕は本場岡山の備前焼、造りも昔のままで――。





 平成6年、利守酒造四代目・利守忠義は備前焼の名匠・森陶岳氏に依頼し、その志に共感した森氏から容量500リットルにも及ぶ大甕を酒造用に譲り受けます。未知への第一歩が始まったのが、平成7年1月13日でした。










 











 大甕による酒造りには、従来にはない数々の苦労がありました。

 上薬を塗らない備前焼には細かい穴が空いているので、甕の洗浄に洗剤は使用できず、お湯しか使用できなかったり、甕の細かな気泡から漏れてくる酒に対応したり――。

 しかし、これまでにはない手間をかけて醸した昔造りの大甕仕込みの酒は、上質の酸と赤磐雄町米が生み出す旨味とが上手く手をつないだ、豊かな風味に仕上がりました。

 この備前焼大甕で醸した酒が「酒一筋・天下人(てんかびと)」です。









 利守酒造の裏山には、昔の防空壕跡のトンネルがあります。実はこの中に、純米大吟醸を詰めた20リットル入りの備前焼の甕が10数個、静かに眠っています。

 商品として出す時期は未定ですが、いつか長期熟成酒としてみなさんに飲んでいただける時が来るでしょう――。










 











 備前の大甕は、全長53メートルもの大窯で焼かれます。

 薪は、最低1年は乾燥させた岡山県北部産の赤松を、土は備前伊部のものを使用します。40日ほどかけて造り上げられた大甕は、更に40日間乾燥させて窯に入れられ、最初はうどで燻されます。その後60日もの間焚き続けて、最終的に温度は1200℃にまで上げて焼き上げられ、焚かれた後は30日ほど冷ましてから、ようやく窯出しされます。

 このように、作成に手間と高度な技術が必要とされる大甕は、1個当たり550万円にものぼる高価で貴重なものなのです。









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